『光陰矢の如しがイヤな歳』


 2017年の始め。父親が誕生日を迎え、晴れて両親二人60歳になったということで、還暦を祝いに地元に帰ったのだが、その食事の場で二人が還暦になった感想をこう述べていて、ゾッとした。
 「あっという間や」
 新人中年のボクにとっては真に迫る一言なのであった。
 かつて、やなせたかしさんが亡くなる直前に「死にたくない」と発言していたのを何かで見たときも、言い表せないぐらいブルーな気持ちになったが、時間とはやはり歳を重ねるごと、その無情さに磨きがかかっていくものなのだろうか。
 “光陰矢の如し”。
 肝に銘じてはいる。が、しかし、ここ最近の矢の如し感たるや、いささか遠慮がなさすぎて、正直、面食らう。聞くとどうだ、2017年の野郎ももう帰り支度を始めているというではないか。
 会社の忘年会でさっさと帰る今時の新入社員かよ。(今時の新入社員のこと知らないけど)
 おい、2017年。お前な、いいか、よく聞け。
 “落ち着け!!!”
 飲みの場でオヤジ上司が、そそくさと帰ろうとする新入社員を一回座らせようとする気持ち、今の俺にはよくわかりますね。
 正直、もうちょっと気を遣ってもらいたいもんである。オヤジ、寂しいんだから。
 そんなこんな、認めたくはないがまた年末がやってきてしまった。
 この時期になると、お見合いの席の導入すら天気の話じゃなく、「1年あっという間でございますね」的なものになっていることと思うが、街のいたるところでも “また一歩死に近付きましたね” 的な気持ちを慰めあうように、みんなやたら名残惜しさを全面にだしまくっている、あるいは、年末ってワクワクすることいっぱいでサイコー!と行事・用事・仕事で補って強がってる、そんなDecember。
 普段にも増してから騒ぎの時分である。
 しかし、この時期の憂いといったら精々ナルシストなジジイ・ババアの専売特許と思いきや、他方、最近では前途洋々たる10代後半のヤングも何やら時間の経過にしみじみしている者も多くいるということで、なるほど、いよいよ人間の虚しさもピークに達してきているのかもしれないな...... なんてことを賢しらに感じたり。もちろん勝手な憶測だが。
 かつて、藤子・F・不二雄は自身のSF短編の一篇『光陰』で、時間の体感速度が年々早くなっていることを取り上げ、そのラスト、実際に月が尋常じゃない速度で動いているのを登場人物たちが目撃して驚くというオチをもって、宇宙縮小を匂わすような大胆な表現をしていた。これはこれでもちろん戦慄だが、正直、それぐらい解りやすい理由があってくれたほうが、逆に腑に落ちていいという気がしないでもない。とにかく(自分の問題であることは重々承知だが)時間の経過と自分との折り合いがまったくつかずオタオタしてしまう今日この時節。そして、サラサラと流れていく時間に相反するように日を追ってドロドロに澱んでいくボクの血液。具合も悪い。いやはや、オッサンになるというのはなかなかタフなことである。
 近所の公園で元気にはしゃぐ子供をみかけるたび、ついつい今よりはるかに健全だった彼らの頃を想ってしまうのはもはやご愛嬌。
 あの頃というのは1日が本当に長かった。美化してる部分ももちろんあるだろうが、取り零しているような焦燥感など微塵もなく。あの十全たる感覚は一体どこにいってしまったのか。
 最近は、ネットをはじめサブカルチャーといわれるものから距離を置くことで、その時々の時間の流れは随分ゆるやかにはなった。が、たった1時間、数分が無限にも永遠にも感じれた子供時代のあの感覚はやはり今の自分にはもうないし、当然戻ってくることもなく。
 密度そのものが違うのだろう。
 現代の社会や文化を通して一般に感じることが出来る諸々をざっと経験してしまったボクは、さながら真空状態の筒のようなもので。
 真空の空間において、羽毛と鉄球が全く同じ速度で落下するように、浮力やら何やらの抵抗を失えば失った分だけ、時間も速度をあげてFallしていくという、そういう諸行無常 & 弛緩したゴムのように、ハリもなく、弾力もなく、ただいたずらに弛み、劣化していく盛者必衰。酷だ......。
 “人は大人になるたび 弱くなるよね”
 浅香唯に深く頷く年末のフールはイッツ・ミー。
 こういう話をつい恥ずかし気もなく他人に告白してしまったらば、その度、みんなはウンザリしながらもこう言ってボクの迷惑で己惚れた発想に優しく杭を打ってくれる。
 「お前だけじゃない」
 みんな空っぽなんだ......。そう思えるとホッと出来たりもするのだが、しかし、実態はそうであっても、実際それを感じさせない装飾上手な人というのもやはり確かにいて、自分の生き様を畢竟恨みたくもなるのだから、甲斐もなく......。
 フリーでGデザインをやっている大学時代の友人Y。彼に用あって連絡し、久しぶりに渋谷で会ったのはこの秋の初めのことだった。
 メールで連絡を交わした時点で、“あれ? すっごい久しぶりかも......” と直感していたのだが、記憶を辿ってみてアラびっくり。彼と会うのは約2年半振りであることが判明。例のごとく時間の経過に驚いてしまったのだが、その当日、本人に会ってその空白を実感すると、ボクは震撼した。そう、彼を取り巻く状況は一変していたのである。
 まず、一にも二にもその見た目。ドラクエ4のトルネコさながらにチャーミングなフォルムをしていた彼のボディが、あからさまにシュッとしておるではないか。
 「えっ......、痩せた?」
 思わず聞いたというか、聞かないほうが失礼だと思ったので出会い頭に訊ねたところ、淡々とした調子でYはこう応えるであった。
 「そうなのよ、痩せたのよ。ライザップで」
 へぇ〜、ライ...... えぇ!!?
 ライザップって、あのライザップぅ?!
 お花じゃなく?(ライラック)
 ビーストでもなく!?(ボブ・サップ)
 ニューヨーク・ニューヨークでもなく!!?(ライザ・ミネリ)
 実際やってるヤツ、初めて会ったよ!!
 未知との遭遇。何というか、雑誌広告で後ろ〜のほうに掲載されてる、よーわからん商品を購入してる人を目の当たりにしてるような、いたの!? 感。
 いや〜、前々からアグレッシブな男だとは思っていたが、これはなかなかのチャレンジ & トライ。相変わらずのアクティビティ。会うなり頭が下がってしまった。
 さらにメシを食いながら近況を聞けばどうだ。まぁ〜手持ちのカードが豊富豊富。
 「実は会社を立ち上げたのね。そんで、渋谷にオフィスを構えたんだけどさぁ〜。あ、そうそう。家もね、引っ越したのよ。再婚して。それでぇ〜......」
 ちょ、ちょ、ちょ...... 待て待て待てって!!!
 そんな一気にキノコを連打するな!!!(@マリオカート)
 こちとら久しぶりに会ったが、特に報告することなんてないもんだから黙って聞いてりゃ、なんなんだ! 貴様の2年半は!!
 聖闘士星矢か? 次々にいろんなことが起こる、聖闘士星矢なのか! おのれは!!
 「近くだし、メシ食ったら寄ってく? オフィス。かなり散らかってるんだけど〜......」
 寄ってくよ!!!
 というわけで、渋谷のアパートの一室、リフォームされたそのオフィスにお邪魔したらば、まず目に入ったのがスニーカーのコレクション。
 好きだったの!!?
 知らなんだぁ......。付き合いの長さなんぞ眉唾である。まさかこんなそれっぽい趣味があったとは。さらに、
 「あ、コーヒー飲む? 最近コーヒーにハマっててさ。もうね、ここ最近コーヒーばっか飲んでて。自分で挽いて飲むんだけどぉ〜。深煎りと浅煎り、どっち好き? オレはね、深煎り。たま〜に酸味強いのも飲みたくなるから、浅煎りのも全然飲むんだけどぉ〜......」
 セルジュ・ゲンズブールの煙草さながら、“水を飲むぐらいだったらレッドブルを飲んだほうがマシ” と言わんばかりのエナジードリンクジャンキーだったYが、今じゃすっかりコーヒー通ときたもんだ。「たとえ心臓がイカれようとも、オレはレッドブルだけを飲み続ける!」......とまでは言ってなかったにせよ、それぐらいの気概でレッドブルと向き合ってましたやん。あの頃のお前は一体どこにいっちまったんだよ!! ......というほど別にこの変化にボクも思い入れがあるわけでもないのだが、とにかく、エナジードリンクはもう一切飲まなくなったらしい。
 次いで、興味津々に部屋を眺めていたボクは、部屋を区切る大きな壁の天井部に注目。羨ましいものが設置されていることに気が付いた。
 「えっ、まさか...... コレ......」
 「あぁ、それね。スクリーン。伸びるの」
 伸びるんだ!!!
 壁一面に敷かれたスクリ―ンに、同じく天井に設置されてあった高価なプロジェクターで見放題の映画を流してもらったのだが、これはもうね、アレですわ。斎藤工(ホームシアター所持)ですわ。音響もまたメチャクチャいい。
 「先生、これ、DVDとかブルーレイとかも観れるんでしょうか?」
 もう自然と “先生” と呼んでいたが、先生は煙草に火をつけ紫煙をくゆらせると、笑顔で深く頷きながらおもむろにこの一言だ。
 「小田和正(オフコース)」
 いやもう立派。まさかまさかとは思っていたが、こんな身近にパッと見にも順風満帆者がいたとは。
 高価なオフィスチェアに座ってる彼のヒザの上に、なんかもう、うっす〜らペルシャ猫が見えてましたもん。
 “派手”。
 曲がりなりにも賑やかなYの日常そのものに感じるこの印象。これは決して、金とか物云々の話じゃない。彼の日常との向き合い方というか、興味や関心、思想、目的、それに対する活動、行動、実行。積極的に世の中に、自分の人生に関わっていこうとする姿勢そのものから醸し出される彩り。
 それがいいことなのか悪いことなのかはわからないが、自分のいる場所よりも日が当たってそうで、なんだか居心地がよさそうな、そんな彼の日々。
 同じ2年半でもYとボクとのこの違いなのであった。
 光陰矢の如し。
 誰にとっても共通のこの感覚だが、少なくともYとボクとの相違ほどの差別はあるのだろう。すなわち、西部劇にみる引きずりの刑のように、矢に引っ張られ引きずり回されるか、あるいは、矢に股がって楽しむか......。
 願わくば、矢に股がって誇る側を目指したいものである。主観的には矢に引きずり回されてる感じがメチャクチャしていてシンドイので。
 しかし、引きずられている状態の人がそこから股がるというのは、これはなかなかアクロバティックというか、難易度高めというか、骨が折れそうな現実も確かにありそうで。
 早々にでもその手段を見出だせればいいのだが。はたして......。


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