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『マメが芽をだし、花となる』
同業・沼田健氏主宰のポッドキャストがある。
コンテンツの名前がたしか、『ロッポンギヒルズ』......いや、違う。『ロカビリージーンズ』。......ん? なんだっけ。まぁ、名前を思い出すのもはばかられるようなソレが今日も人知れずネット上のどこかで野放しに邪悪を放射しているらしいのだが、その眼目は、同業者同士で集まり互いの俗物根性を競い、その様を音源にして晒す――とか、確かそんな感じでしたっけね。
要するに、そのために知人の同業周り幾人かで集まるということが定期的に行われていて、何を隠そうこのボクも業界のクズの雄として生き恥を晒しにしばしば参加していたのだが、そこでよく顔を突き合わせていたのが、神奈川が生んだコメディメーカー、室木おすし氏であった。
室木さんとの出会いは、そのコンテンツがスタートするより以前、不意に誘われた同業者飲み会の場だったと思う。イラストレーターとか名乗っちゃってる連中は、ボク含め基本全員性格が破綻しているのだが、室木さんに関してはそれまで知り合ってきた人たちとは違う何かを感じたのをよく覚えている。
とにかく人当たりがいい。寛容で、社交的。ユーモアがあって、やりとりも的確。厭味がない。ボクがもし会社を経営していたらまず間違いなく営業に欲しい、そんな逸材。
人柄もさることながら感服するのが物事に対するスタンス。本人がどこまで意識しているのかはわからないが、非常に当を得ているというか。
まずとにかく付き合いがいいのである。呼ばれれば行く。めんどくせぇなぁ〜と感じることでも、やだなぁ〜と思うことでもとにかく足を運ぶ。少なくともボクが話を聞いた範囲では、まず間違いなく結果的に足を運んでいる。しあわせのくつ(フィールド歩くだけで経験値が上がるドラクエのあれ)履いて、レベル上げでもしてんのかなぁ〜ってぐらい。とにかく動の人なのである。
そしてそれと軌を一にして、行動の人である。やると決めたことをやる。絵なんかも金にならないことでも積極的に手を動かす。もちろんこれもボクの勝手な思い込みかもしれないのだが、しかし、やってないにせよ、やらないにせよ、やれないにせよ、何かしらそこを目指そうとした痕跡ないし、意志が見受けられる。
また、探求の人でもある。趣味なのか、追われてんのか、とにかくアンテナをはりまくっている。ネタ収集に余念がない。千原ジュニアばりに日常のあらゆる出来事をストックさせている。状況が状況なら道に落ちてるウンコすら持って帰りそうなぐらい。
どれもボクの勝手な印象の域をでるものではないのだが、とにかく室木さんという人はそういう諸々を引っ括めて、“マメ” なのである。マメ。これはもうご本人が思ってる以上に。
そして昨年。そのマメが芽を吹いた。
SNSも一切やらず、先の同業の集まりにもすっかり参加しなくなり、富士正晴さながら竹林の隠者と化したボクの元に、ある日、一通の風の便りが届いたのであった。
室木さんがご自身初の書籍を上梓することになった、と。
自分のためにも家族のためにも、この業界を生き抜くには自分の名を冠した本を出す必要があると、数年前から自著出版を目標に掲げられていたのを知っていただけに、何とも胸が熱くなるニュース。さすが室木さん。やはり行動の人。有言実行の人だ。
室木さんをリスペクトするボクとしてはこれはもう速攻買って読まねばと。急いで知り合いの同業に電報を打って、何というタイトルか教えてもらった。室木さんの処女作。その記念すべき著書のタイトル、それがこれだった。
『悲しみゴリラ川柳』
どうした!!?
シンプルに思った。
なぜゴリラ? なんで川柳??
しばらく会わないうちに、一体何が!?
なんせ人とも会わなければ、ネットとも距離を置いていたもので、前段も脈絡もなかった分、いきなりのマッシュアップ “ゴリラ×川柳” に戸惑いもひとしお。
変な占い師にそそのかされたか!?
心配もした。
とにかく、ブツを手に入れて中身を確認せねば。話はそれからだ。ボクは急いで近所の本屋へと向かった。
本屋に到着。店内をグルっと一回り。なるほど、見当たらん。ボクは早速ゴリラ川柳迷子と化した。
“どのコーナーだ!?”
サブカルコーナーにもない。コミックコーナーにもない。ひょっとして、動物コーナーか? いや、ここにもない! まさか...... 売り切れ? そんなはずないだろうが!!!(失礼)
本屋を右往左往。ダメ。わかんない。何やってんだオレ。いつまでもこんなサマルトリアの王子を探すようなことをしとる場合ではない。早く帰ってハンカチにアイロンかけなきゃ。しょうがない。文明の利器に頼るか。検索機にかける。“悲しみ...... ゴリラ...... 川柳...... と”。そしてワンピースは指し示された。
“川柳コーナー”。
なるほど!!!
川柳コーナーに行く。
悲しみ...... 悲しみ...... ゴリラ...... ゴリラ...... すし...... すし......。
って、ない!!!! ここにもないぞ!!! なんでない!? 在庫アリだったのに!!
なんだかムカついてきた。もはやとるべき手段は一つしかなかった。
“店員さんに聞く”。
ちょうど近くで本を並べている女子大生っぽいバイトさんがいる。よし、聞こう! そう思って店員さんに駆け寄ろうと一歩踏み出したその次の瞬間。ボクは思い止まった。そう。ある感情がボクを瞬時に支配したのだ。
“恥ずかしい!!”
当然である。なんせ『悲しみゴリラ川柳』だ。
「悲しみゴリラ川柳、どこにありますか?」って。
人生、どんなテンションになったらそんな本探すよ?
これで店員さんがわずかでも広角をあげようもんなら.....
ああ! 想像しただけで、ダメ! 宿便がでる!!(いいじゃん)
とはいえ、もちろんわかってる。店員さんは何も思うまい。そりゃそうだよ。他人なんだもん。福士蒼汰くんがそれを聞くならいろんな感情も芽生えようが、なんせオレだ。フツーに調べて案内してくれる、ただそれだけだ。それはわかってる。だが、誰よりも過剰なオレの自意識が理性を超えてくる。わかっちゃいるけど、恥ずかしい!どうにもとまらない(山本リンダ)! なぜなら...... なぜなら、その店員さんがちょっぴりカワイイから!!!!
OK。落ち着け。とりあえず一拍置いて呼吸を整えよう。インターバルだ。ボクは適当に店内をブラブラしつつ、ひとまず新刊コーナーのあたりでショート・ブレイク。新刊の並ぶ棚で目を遊ばせた。......と、何の気無しに順々と並んでいる本に目を配っていたその時だった。マ行のそこで不意にフォーカスがバチーーン! ふっと飛び込んできたのは “室木おすし” の文字。
「あっ、あっ、いたあぁぁーーー!!!」
もう完全に声に出して叫んでいた。まさかの邂逅。いきなりおすし。ゴリラ川柳は突然に。
灯台下暗しというか何というか。ゴールド・ロジャーも下を巻く秘宝隠し。トリックプレー。それにしても検索機だ。あの野郎、なんちゅうミスリードを。アジなマネしやがって。だから信用出来ないんだよ、機械は。
そして、やっと会えたねの感動もほどほどに、それとは別に舞い込んだ一つのある感慨。なんと、室木さんのゴリラ川柳の真横に村上春樹の本がサイド・バイ・サイド! 本同士、隣り合って肩を並べているではあ〜りませんか。消せないアドレスMのページ(プリプリ)ミラクル。差し詰め、ウイリアムズバーグサミットで、ロンちゃん(ロナルド・レーガン)の隣りにポジショニングするヤス(中曽根康弘)といった風情。
“おいおい。世界のMURAKAMIと肩並べてるよ、ゴリラさん”。
もはや、作者とゴリラが混同している状態だったが、とにかくスゴいなと思いつつ、本を手に取り、レジにGO。すると、ここでもまた難関が。先程の女子大生バイト(カワイイ)がレジにまんまとピットインしてやがるではないか。何なんだ、君は!! 藤真にボックスワンでつけとでも言われたんか!?(仕事してるだけ)
一瞬ためらわれたが、しかしまぁ、コレに関してはただ商品を渡して金を払うだけじゃないか。タイトルを口にして案内してもらうという行為に比べれば、な〜に全然たいした事じゃない。ボクはレジ台にゴリラ川柳を堂々とバチーーン!!
「カバーはおかけしますか?」
「お願いします!!!」(食い気味に)
そして家に帰り、『悲しみゴリラ川柳』を拝読。なるほど。一気に読み切ったボクは率直にこう思ったのだった。
“わけがわからない”。
何なんだ、この本は!
ただひたすらゴリラの悲しい状況を荒唐無稽に川柳にして、そのシチュエーションをイラストで描写しているわけだが、なぜこんなことを!!? ってかコレ、ゴリラを勝手に悲しくさせてるの室木さんじゃん!! まさか...... ひょっとして、風刺? 人間のエゴとかそういう思い上がりが裏テーマか!? ともあれば深いな......。さておき、一個一個の川柳のセンス......。秀ですぎ。あの人の発想はなんなんだ。バケモノか。一冊分も考えるかね? まったく。よくもまぁ〜こんな毒にも薬にもならないことを切々と......。とはいえ、何か...... 何か感じる......。無意味なようで何か意味があるような......。メタファー臭がしないこともないというか......。しかし、それにしてもこの絵だ。なんてコミカルなんだ。ブックデザインも地味〜に良いよ。って、えっ? ちょっ、待って...... コレ、ブックデザイン、寄藤文平やん!!!! ムダ〜〜! いや、ムダってことはないけどさ、皮肉とか悪口とかじゃなくて! いい意味で! いい意味でよ!! ムダーーーー!! わけわかんねぇ〜〜〜〜!!
......で、いろいろ巡り巡らされ、5・6周回った末にボクが辿り着いたこの本の評価はこう。
良い。(混乱)
何ていうかまた、この本が室木さんの記念すべき処女作というのが、室木さんらしいというか、室木イズムというか、オツである。
作者に対する深い敬意と祝意に溢れたボクはといえば、当然こう思ったのであった。
サインが欲しい!
室木さんにとってはいい迷惑であろうが、知り合いの特権を使って、多忙な室木さんを強引に引っ張り出し、時間を作ってもらって、ボクはサインをもらった。
ゴリラを30年描き続けてきた人みたいな手付きでサインの横にゴリラの絵を添える室木さん。これまで見てきたどのゴリラの絵よりもチャーミング。
サインを描く室木さんの姿をみて、かっこいいと思ったし、なんだか羨ましいとも思ったし、当然嫉妬もあったし、でもやっぱり他人事なのに珍しくそれと同じかそれ以上に嬉しい気持ちがちゃんと自分のなかにあって。それもこれもきっと室木さんの人徳のなせる業。いろんな意味でやはり頭の下がる思い。何はともあれ、よかったよかった。めでたいめでたい。
......で、そんなゴリラな記憶もまだまだ鮮やか、室木さんおめでとうね! の興奮冷めやらぬ、年明け、つい先日のこと。
室木さんから年賀状のお返事でいただいた寒中見舞いに驚愕の新ニュースが。
“新刊をだしました”
また!!?
いやもう、いっときの倖田來未(ばりのハイピッチ・リリース)じゃん。あいみょん(ぐらいノッてる)じゃん。江ノ島プリズム(の舞台が室木さんの母校らしいんだけど、それに出てる本田翼ぐらいの輝き)じゃん。
タイトルの記載もある。え〜っと...... なになに、『君たちが子供であるのと同じく』。
良い。
なんかわかんないけど、ゴリラと打って変わって抒情的。
なんちゅう好いたらしいタイトルよ。まんまと釣られたボクはといえば、もちろんその足で本屋にマッシヴ・アタック。速攻買って読んでみた。
はい、めちゃくちゃ面白い。
中身マンガだったんですけど、もうね、読み終わったあとのオレの気持ちは、本の中に登場する室木さんのお兄さんのセリフの「あーあ、あーあだわ!」のソレ。
やってくれたなぁ!! って感じ。もしくは、やっちゃったよ! っていうか。あ〜、もう行っちゃう、遠くに行っちゃうわ〜! みたいな。
ゴリラからのコレは、ヤバい。いや、一貫性はあるんですよ、あるんですけどね。
室木さんのギャグセンスに、プラス、フェリーニのようなセンチメンタリズムとノスタルジーがあるというか。
とにかく、歴史に残るだとか、人生ナンバーワンとか、そういう本かといえばそれは人ぞれぞれだし、星の数ほど存在する本の中のただの一冊に過ぎないっちゃ、過ぎないのかもしれないですけど、ただ、出会ったときには読んで良かったなと、楽しい気持ちになるというか、充足するというか、励みになるというか、裏切らないというか。なんかそんな室木さんそのものみたいな当たりのいい一冊になっていて、まとめると損のない一冊。
いやぁ、ブラボーでした。お世辞抜きで。
まさに、室木さんが望む望まざるに関わらず、いろんな意味で “マメになって” 生きてきたことの集大成というか、その答えというか、証明というか。出るべくして出された本だなと、腑に落ち、襟を正され、何でかわからないけど鼻高々。これはまたサインをもらわなければ。敬意と祝意を表して。そして、ややもすれば後ろ向きになりがちな人生に立ち向かう室木さんの熱意と鋭意を称して――。
“マメになる”。
自分の人生に何か花を添えたいという人には大切なことである。室木さんの成り行きを傍目にそんな実感もこもる。
マメに根気強く水をあげ続けることができれば、いつかマメは芽を出し、その芽が花を咲かすのだ。
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